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小説 13--形にしないものと形にしすぎるもの
ラテンとパウロって仲悪いよなー。」
持っていた書類を乱暴に投げ出しながらランが言った。
名前を列挙された当の二人は黙々と書類に向かっていた。
「てかさあ。そんなに機嫌悪くするなら二人とも別の執務室に行けよ。」
うんざりしたようにランがそういうのも当然である。
ラテンに遅れてパウロが入ってきてから
部屋には険悪な雰囲気が漂っていた。
「資料がここにしかないんだ。」
しょうがないだろ?とでも続くかのようにラテンが手を休めずに言った。
「そうでないならこんなところ出て行きますわ。」
ラテンがいるならーとでも続くのかパウロの声にはとげがある。
ランとエリザはため息をついた。

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パウロのどこが嫌いか、と聞かれてもラテンには答えられない。
嫌い、というのにもまた誤解がある気がしていた。
嫌いというわけではない。
苦手、なのだ。

パウロはすぐに泣く。
厳しくすると駄々をこねるのだ。
シーアがゆっくりとなだめてようやく落ち着く。
だから、男勝りなラテンにはどうにも扱いが難しかった。
実際、同じ城で働き始めてからはやり辛くてしょうがない。
憎んでいるわけでも嫌っているわけでもないが癪に障るのだ。

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「そこをどいてくださらない?」
小広間に入ろうとしたラテンは背後の声に振り返った。
「邪魔、ですわ。」
やや低い位置から見上げるようにしてパウロが睨んでいた。
「邪魔をしたくてここにいるわけじゃない。」
「そんなことは解りきってますわ。どいて、くださいませんこと?」
ランに同じことを言われたら素直にどくだろう。
引き下がるには癪に障った。普通にどいてといえないのか。
「入り口は一つといわず他にもあるが?」
しばし、沈黙が流れた。

「正当なパウロ一族に言葉の使い方も知らない将軍ですこと。」
「正当、ね。その昔カルロ一族とタリア一族に国を追われた一族が。」
「言葉を改められよ!わが一族を愚弄する気か!」
「出自不明の将軍風情が、とでも言いたそうだな。」
「その通りではないですの!」
ふっとラテンは一瞬視線を逸らして、パウロに向き直った。
不毛だ。こんな会話は無益どころか有害だ。
「パウロ。いい加減休戦にしないか。」
今はこんな言い争いをしている場合ではないのだ。
「あなたが態度を改めないからではありませんこと?」
パウロはそれでもなお突っかかる。
譲歩を見せても、ムキになる辺りが幼稚だとラテンは思う。
「そうですね。パウロ補佐官殿。どうぞお入りください。」
厭味でもなく、静かにラテンは足を引いた。
「初めからそうしてればよいものを。」
そうしてパウロは小広間へと入っていった。

褒めると全身で嬉しさを顕わにする。
叱れば大泣きをして駄々をこねる。
自分が優位でなくば気にくわず、我を通さねば収まらない。
まるで小さな子どものようだ。
軽蔑している者たちも多かった。
婚約者であるシーアとまったく釣り合いがとれていないと言われている。

うらやましい、のかもしれない。
素直に浅はかに誰かを下に見ては真っ直ぐ歩くパウロが。
ラテンにはそこまで通せる我も無かった。
出自が不明の自分の足許はひどく頼りない。
まして、男尊女卑の社会の中で、
その地位は氷の上に立つよりも厳しいものだった。
妹以外に、確かと思えるものなど無い。
これは妬みだ、とラテンは自覚していた。

ガシャンと大きな音がして悲鳴が上がった。
小広間からだ、と気付けば足は向かっていた。
部屋に入ると数名を中心にして野次馬が取り巻いていた。
方々に散らばった物はパウロが投げつけた物のようだった。
パウロは顔をぐしゃぐしゃにして、泣きながらじっと男を見ていた。
名前はわからないが、他国の、同盟国ではない国の皇子のようだった。
「何があった?」
部屋は静かだった。
ラテンはパウロに歩み寄り、直に訊く。
本気で怒っている。
いつもの怒り方ではない。
「何か言われたのか?」
自分が怒らせたときでさえこんな顔はしないぞ、と思う。
「…が。カンザスのシーアはへたれ皇子だ、と。」
怒りで声がうまくでないのか、泣いているせいか。静かに言った。
「おまえ、何を根拠にそんなことを言った?」
ラテンが振り返り、目の前の男に問う。
他国の皇子は笑っている。
「実際、カンザスのシーア皇子はたいしたことないだろ。
 まあ、この国の化け物皇子の友人って時点で終わってるけどな」
ははは、と同じ国の服を着た者が数名笑った。
「大体、パウロ様が悪いんだぜ?偉そうに出て行けとかぬかすから」
「正当な権利だろう。この部屋は他国の者を受け付けない」
ラテンはきっぱりと言った。
「おまえたちだってハーン人じゃないだろーが」
「よせって。こいつらキャルロス王国と
カンザス大帝国と第七帝国の人質だろ?」
再び嘲笑があがった。ラテンはぐっとこらえた。
「キャルロス?こいつは第七帝国の将軍様だろ?」
「キャルロスのタリア=カチカルスの婚約者なんだよ。そいつ」
「タリア=カチカルス?あいつもけっこう鼻持ちならないやつだよなー。
 お高くとまりやがって。」
我慢の限界だ。ラテンはすぅっと血の気が引くのが解った。
「タリア=カチカルスは関係ないでしょうっ!?」
先に声を上げたのはパウロだった。
「立派な一族が立派に振舞って何が悪いのよ!
 タリア一族もカルロ一族も生半可な教育じゃないんだからっ!!
 あんたたちとは鍛え方も出来も違うんだからっ!」
ラテンが何か言おうとした時、上から声が割って入った。

「今、誰かエイザのことを何か違う呼び方しなかった?」

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パウロ一族はカルロ一族、タリア一族と因縁を持ち、
その昔キャルロス王国を追放されたとされている。
以来、パウロとタリア、カルロの間には決定的な確執がある。

「パウロが、タリア一族の次男であるカチカルスを庇うとはなー。」
大好きな皇子様を化け物皇子と呼んだからには
相応の対価を支払ってもらわねばならない。
弱いものをいたぶるように、
異国の皇子をお仕置きしたランは満足げな顔をしながら言った。

パウロは執務室の椅子でぐっすりと寝ていた。
四人ぐらいがちょうどの手狭な執務室だ。
「私も驚いたわよ。」
熱いお茶をすすりながらエリザが笑う。ラテンはそこにはいなかった。

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「だから嫌になるんだ。」
ラテンは静かに笑っていた。
「結局、パウロは俺じゃなくておまえを庇ったんだろ。
 パウロがおまえに向かって散々言うのは聞いたが、
 他のやつがおまえに手を出すと怒るんだよな。」
カチカルスが向かい合って座ったまま言った。
「なんだそれは。」
ラテンは久しぶりに会う婚約者に尋ねた。
「要するに、おまえ、子どものおもちゃのようなものなんだろ。
 飽きたら放っておくけど、他のやつがそれで遊ぶと怒り出す。」
「カル。」
言いすぎだ、と言おうとして言葉をさえぎられた。
「おまえも少しは泣いて駄々をこねたらどうだ。」
「?」
「パウロもおまえも、足して二で割ってみたらどうだ?」
そう言いながらカチカルスはラテンの左腕をつかんだ。
ふっとラテンは違和感を覚えた自分の腕を見て驚く。
「カル、これっ!あ?っと。」
どうにもまとまらない。
「何が欲しいか、どうしたいのかちゃんと意思表示しないから困る。
 一回パウロと大喧嘩してみろ。
 俺は兄上と思い切り派手にやらかした。
 何にも根拠がなくても確かなものだってある。
 だから真っ直ぐ歩いてみろ。」



自分ひとりになった部屋でラテンは動けずにいた。
「確かなものを形にしようとしてくれる人がいるんだよな。」
左手に光る婚約証の腕輪はきれいな緑色だった。
「よし。」
ラテンは立ち上がるとパウロの寝ている執務室に向かった。
小説(短編) - - uamo72
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