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小説 20--飴玉二つはわたくしのわがまま 
第一皇子だから、自分はしっかりするべきなんだとシーアは自覚していた。
この巨大な帝国、カンザスの責任ある立場なのだから完璧でなければと。
がっちりとした体格だって、
武術に長けていなければいけないと思って鍛えたからだし
茶色い髪が短いのだって邪魔になるから切った。
服装だっていつも、きちんとしていたし、
今日できることは今日やってしまうのが信条だった。

「パウロ一族本家第一子、パウロ=パウロです。
本日よりこちらにて仕えさせていただきます」
少し高めのふわっとした柔らかい声が耳に心地よかった。
薄い水色の肩までの髪が、美しかった。
「第一皇子、シーア=カンザスだ。
 わからないことがあればヴェスタ辺りにきくといい」
敬礼したまま、はい、と小さく答えた少女は緊張しているようだった。
「そんなにかしこまらなくてもいい。
 俺はそういうこと、気にしないタチなんだ」
ふっと顔をあげて少女は少し笑った。

「パウロ様!なりません!」
客人を迎えるべき中央の巨大な部屋は、騒がしかった。
「何事だっ!」
外交を担うのが皇帝の役目ならば、城内の統括が第一皇子の役目だった。
皇子の声に場はとりあえず静まった。
少女は目を真っ赤にして全身で泣いていた。
その向かいには城内の若年者が集う研究室の若き女室長がいた。
二人の服装が乱れているところを見ると、つかみ合いになったらしい。
(またか)
パウロが騒ぎを起こすのはこれが一度目じゃない。
「何があったか、初めから見ていた者が説明してくれ」

話を聞けば、若き室長の発言が原因だったらしい。
自分たちが苦労して城に上がったものを、
パウロ一族というだけで城入りするのはずるい、と。
もちろん本人に言ったわけではなく、
室内で仲間たちと話しているのを偶然パウロが耳にしたのだと。
「とにかく皆、仕事に戻れ。ヴェルテス。
 その言い分はわかるがまた後日だ。パウロは別室に来い」
ざわめきながらも野次馬は散り、
ヴェルテスも仲間に連れられ研究室へ戻った。

*****************************

「パウロ。もう少し我慢できないか?」
青年期が長く、年齢の差をあまり感じないとはいっても
パウロはシーアよりも確実に年下だった。
兄が妹をたしなめるように、言った。
少女はこらえられない嗚咽を止めようと必死になっているようだった。
「ヴェルテスの意見は、多くのものが感じていることだし、
 前からある意見だ。」
子供を諭すようにパウロに言う。
「な…にを、が、まん、す……るべ、きだと、おっしゃ…る?」
切れ切れになりながらも、パウロは真っ直ぐシーアを見ながら言った。
「少し腹が立ったからって、毎回こんな騒ぎを起こしていたら
 うまくいかないものもうまくいかないし、
 相手の意見をちゃんと聞くって事は大事なことだ」
「我慢、すれば、あの人、たちの、意見が、変わると?」
「言い方ややり方は他にもあるだろう。あんな、やり方はダメだ」
パウロにしてみれば、
自分が仕えるべき皇子からたしなめられることはとても不快だった。
「他の、他の言い方で変わるような方々なら、
 あのようなやり方はしませんわ」
「パウロ。今月に入って何回目だ?
 おまえのことが嫌で配置換えをしてくれと言われることも多いんだぞ」
「だったら、配置換えをして差し上げれば宜しいのではないですか?」
「パウロ!そういう問題じゃないだろ!」
シーアだって忙しい。少女にばかり時間を費やしているわけにもいかない。
「そういう問題でしょ?!」
堰を切ったように、パウロはまくし立てた。

「なによ、それ。好きでこの国にいるわけじゃないわ!
 もともとはキャルロス王国の民だし、
 受け入れるといったのはかつてのこの国の皇帝でしょ?
 何をしたって言うの?我慢なんてかっこつけてるだけじゃない。
 言わなきゃ言われ続けるのよ?
 我慢しろ?冗談じゃないわ。
 不満があるなら私に直接言えばいいじゃない。
 そうしたら私だってつかみかかったりはしないわよ。
 嫉妬や羨望に付き合って不快になるのは嫌よ。
 叱られるより、怒られるより、怖いものだってあるでしょ?
 怖いものに牙をむいて何が悪いの!」


パウロに自分の部屋での謹慎を言い渡し、
通常公務を終えてシーアは自室に戻った。
昼間の少女の言葉が頭を駆け回っていた。
完璧でなければならない。
そう思い続けてきたシーアにとって、叱られることは怖いことだった。
それよりも怖いことなんてない。
「我慢なんてかっこつけてるだけじゃない」
少女の柔らかくも高い声が、どこか胸に痛かった。


「ヴェスタ。パウロどこに行ったか知らないか?」
謹慎も解けて、パウロは相変わらずどこそこで騒ぎを起こしていた。
「パウロ様なら第八研究室ですよ」
「は?」
「だから、第八研究室で、ヴェルテス様と研究に没頭してますよ。
 今日はパウロ様は休日ですから」
ヴェスタは笑っていた。

第八研究室は賑やかだった。
「だーかーらーその結果はおかしいと思いませんこと?」
「違うって。あたしの筋どおりに決まってるってば」
「あれ?二人とも違うんじゃなーい?ここ見てよホラ」
「あ。シーア様だ」
入り口に立っていたシーアに気づいて一人が歩いてきた。
「パウロ様に御用ですか?」
「いや、用ってわけじゃ…何してるんだ?」
「パウロ様が資料をご本家から持ってきてくださったんですよ。
 ここの図書室は第一とか別の研究室の人たちが占領してるから」
「楽し、そうだな…」
「ええ!……?シーア様?どうしたんですか?」
「いや、なんでもないんだ。ちょっと脱力しただけ」

そんなのずるい。言いたいことを言っても、ぶち当たっても、
後で笑い合えるなんてずるい。
あんなの自分にはできない真似だと、シーアは実感していた。
どこか、パウロには一生勝てないような気がした。

*****************************

「子供ってねぇ。融通利かないのに、大人は癒されることあるよね。
 なんていうか、理屈じゃない分、豊かなんだよねぇ」
「で?それが、婚約した理由ってこと?」
「パウロの価値、か」

他国の皇子とその仲間に散々言われ、シーアは笑った。
「喧嘩するのも怖くて逃げ出す俺には、あれぐらいでいいんだ。
 たまに、俺よりあいつのほうが賢くて正攻法なんじゃないかって思うよ」

第一皇子だから、自分はしっかりしておこう。少女を守っていけるように。
髪は長いほうが好きだって言うから、伸ばすことにした。
今日できることは今日やってしまうのが信条だったけど、
少し手を抜くことを覚えた。
わがままで幼稚で、と周囲は散々言うけど、
少女に友達が多いのは一目瞭然だし
自分が我慢する分、あれぐらいがいい。奔放で好き勝手なのがいい。
ぶつかって、克服していける柔軟さが自分にはないから、パウロがいい。


「え?婚約した理由?そうですわねぇ。私、シーアはバカだと思いますの。
 欲しい飴玉一つ、欲しいといえない、いわないバカだから
 あの人の分まで私が最初に二個取っておくの。
 それが 私の我がまま、ということでいいんですの」



小説(短編) - - uamo72
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