SolemnAir

最初にカテゴリー「はじめに」をお読みください。(最初のご説明です)
Don't use texts and images in this weblog without permission. Copyright(C) 2003-2020 "SolemnAir", All right reserved.

牢獄の皇女と本来そこに居るはずの将軍 15


「あなたは言った。
制御不可能なものを二つ一個の容れ物に入れている、と。
そしてあなたは言った。
ラズとシェルを切り分けするのが難しい、と。

おかしな話ではありませんか陛下。
反作用し合って、食い潰し合う二人が切り分けできないだなんて。
不思議ではありませんか。
初めから二つのものを入れていると言ったのに分離もできないだなんて。

あなたほどの人が?
人の生死でさえ、時間や空間のなにもかもをどうとでもできるあなたが?
たった一つの魔法力を実体化することができない?
自身の傷でさえ自動的に治してしまう禁忌の体質のあなたが?

陛下。

この世の中で物理的にあなたの思い通りにならないことなんて
何一つないはずです」



それは、誰もが口にしないが誰もが知っている話。
人知を超えた生き物が存在している話。

当の本人は、無表情でシャザを見ていた。
床から怪訝な顔で息子は父親を見上げていた。
その距離はわずかに二歩。

化け物といわれ育った少年が
この国のその立場に落ち着くまでにどれほどの血が流れただろう。
少年が欲しくもなかったその力と引き換えたものはどれほどのものだっただろう。
その血が未来に残ることをどれだけ憂いただろう。


だが、そんなことはシャザにはどうでもよかった。
そこのところは、自分の父親にでも任せる話だ。
シャザにとっては、その顔立ちによく似た地面に座っている男のほうが大事だった。
その男が大事にする、同じ顔をした亡霊のような女のほうが大事なのだ。

背中が熱い。
傷のせいか、口走っているこの感情のせいか。


「あなたは、自分の血を呪っている」


呪いたくもなるだろう。
なんでも思い通りになるなら、それは夢みたいな話じゃないか。
そうではない。
そんなに簡単なことではない。

他人と違うということ。
他の誰もが持たないものを持っているということ。
他の誰もが持っているはずのものを引き換えているということ。

自分の想いを共感してもらえないという、孤独。


その制御できない力で殺めた人がいることをシャザは知っている。
それが、エイザ=ハーンにとって大切な人だったということも。
弟のその力を抑えるために、制御するために、
エイザ=ハーンの兄は大きな対価を支払った。
それもまた、知っている。


「自分の血を継いだ、力を継いだ実の息子を嫌っている」
シャザのその言葉にラズが顔を逸らし俯くのが見えた。
エルロットが非難するように声を上げたが、シャザはするりと流した。
シャザ、と父親であるシャロの声がする。

シャザは、エイザを見ていた。
その視線はぶつかったまま、双方ひかない。
手摺を握る手が汗で濡れている。
震えるような寒気を感じて、しかしシャザは熱かった。


「そこまでは本当です。
だからこそ、父や母、ラン様でさえも、気づかなかったのでしょう」



いつも薄ら笑いをしているエイザの顔に、今はそれが無い。
シャロの隣にはランがいる。
ランの斜め後ろにはエリザがいる。

エイザ=ハーンを支える三人柱がそこにいる。


「シェルではなく、ラズだった」

シャザの声が地に落ちる。
なにが、と疑問の顔をしている者が複数人シャザを凝視していた。


「シャザ?なにがラズだったというの?」
母親が娘に聞く。
金髪碧眼、皇帝陛下と同じ顔を持つエリザは困惑した顔でシャザに歩み寄る。


シャザの膝が崩れた。
手摺に捕まる力ももうない。
広間の床にべったりと座りながら、息を切らしていた。
その肩にエリザが手をかける。

随分と近くなった距離。
それでもその手に触れるには勇気が要る。

(ここは檻だ)
以前シャザはそう思っていた。

本当に?
本当に自分は閉じ込められて束縛されて、それしか無かったのだろうか。
一度でもこの母親が自分に求めることの意味を考えたことがあっただろうか。

母親はずっと自分の言葉をまともに取り合わなかった。
自分はずっと母親の言葉に向き合ってきた?



(見えてないものがあった)
シャザはふふっと笑いを浮かべた。
冷や汗が落ちる。
肩が温かい。


「陛下が、守って、いたものは、シェルではなく、
 ラズ、だったん、ですよね?」



シャザの目は床を見ていた。
顔を上げることが辛い。
支える腕に縋っていた。
ずっと触れることさえかなわなかったその母親の腕に。

「どういう、こと?」
エリザは娘に聞く。
だがシャザは返答ができなかった。


意識が、落ちる。
どこか遠くで母親の声がぼわんぼわんと響く。
「シャザ!」
叫んだのは誰だったか。



シャザはその意識を手放した。



青い目が、その光景を見ていた。
そして身体の向きを変えると二歩。

その手を鎖にかける。
その手で枷をつかむ。
崩れ壊れたそれらを踏んで、倒れたシャザに駆け寄る息子を父親は振り返らなかった。


風が吹く。
誰かが誰かの想いに動く時、
なにかがなにかに走り寄る時。


広間にみえない風が吹き、言葉の端がはためいていた。
牢獄の皇女と本来そこに居るはずの将軍 - - uamo72
<< NEW TOP OLD>>