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牢獄の皇女と本来そこに居るはずの将軍 14

シャザ皇女が重傷を負ったらしい。
人の口に戸はたてられない。
その噂は一日と経たず城中を駆け巡っていた。


「命に別状ないんでしょ?」
あの女のことだから殺したって死なないわよ、と言わんばかりにシャリザは吐き捨てた。

吹き抜けの広間には皇族と警護軍が揃っている。
「襲ったのはあれだろ?」
ルーティンが指した先には例の幽霊が浮いている。
ラズ皇子に見える、ラズ皇子ではないなにか。

見えない力に括りつけられているかのように
部屋の中央から動かない。
ラズ皇子ではないのだと誰もが知っている。
そのすぐ下に本人が座していたからだ。
腕は後ろに鎖で巻かれ、その両足にも枷がつけられている。
ラズは俯いていた。


「さて、」
軽快な声が響いた瞬間、城中の音が消えた。
少なくともそう感じるくらいには、誰もが静かになった。

この国の頂点にたつ金髪碧眼、
化け物とうたわれる皇帝陛下はにこやかに笑って幽霊もどきに歩み寄る。

「実害が出た以上、君をこのまま放置するわけにもいかないんだなあ?」
声の軽さがどうにもその内容と合わない。
こつこつと金属製の靴が鳴る。
シャラララと腕輪も囀る。


「シェル?残念だ。君を消さなくてはならないね」
その表情にそんな気持ちは微塵も感じ取れない。

事情はほとんどのものがよくわかっていない。
しかし誰も口を挟まなかった。
疑問の声さえ上がらない。


「エイザ。それ以上力を行使するのであれば本気で対抗するぞ」
言葉を発したのは皇帝直属臣下のシャロ。
その身は世界最強の結界魔法を誇る。
その声は重い。


ちらりと左後方を見て皇帝は幽霊もどきに視線を戻す。
つい、とその左手があがろうとした瞬間だった。


「待ってください」
誰もが突然降った声に広間につながる階上の通路を見た。
手摺につかまりながら、それは重傷を負った皇女。
声が傷に響くのだろう。
その顔は険しい。
よろよろと体重を自分以外の物に頼りながら階段を下りる。
背中の傷は肩口から腰までにわたっていた。
階段も終わったところで、手摺に寄り掛かるようにして足を止めた。

「待ってください、陛下」
その声は本人の状態に反して凛と響き渡った。
誰もが好奇の目で見ながらも沈黙を保つ。

「おや。無理はいけないねシャザ?」
にこやかに笑いながら件の男は姪を見る。
それに返した視線は突き刺すようなものだった。
青い目に紫の目が反抗する。


「あなたには子供が五人いる」
その言葉から始まり、シャザは全てのことを曝していく。
ざわめきが、どよめきが。
エイザ=ハーンの顔は無表情だった。
そこには何も映っていない。

総てを暴露し終えるとシャザは一度呼吸を整えた。
息が荒い。
痛みも相当だが、おそらく傷が開いている、シャザは自覚していた。



そしてシャザはふっと目をずらした。
そこには信じられないような顔で泣きそうな顔をした男がいる。
それは今暴露した一連のことに対してか、この傷に対してのものか。
自分よりも大事な女がいるといった皇子。
妹を助けてやりたいといった皇子。

(そんな顔をするなばかもの)
顔面蒼白になりながらシャザはつい苦笑いをする。
常用薬は手放した。
傷だらけだった腕も身体も痕が残るばかり。
常用薬を欲しがれば口を塞いでくれた。
傷を増やそうとすれば優しく撫でてくれた。

落ち着くまで飽きることなく傍にいた。


シャザは視線をその父親に戻すと真っ向から見据えた。
これを言わなくてはならない。
これを言いにきたのだ。


「私たちはなにも偽ってなどいなかった。
シェル、どうか信じて欲しい。
偽っていたのは、最初から偽っていたのは、
そこにいる陛下なのだ」



シャラララと音がした。
それは、父親のものだったのか息子のものだったのか。
対の腕輪がひとつ。

袖をつかんだ手を、
どうしても振りほどけなかった父親がそこにいた。



(続く)

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