SolemnAir

最初にカテゴリー「はじめに」をお読みください。(最初のご説明です)
Don't use texts and images in this weblog without permission. Copyright(C) 2003-2020 "SolemnAir", All right reserved.

愚王と魔法使い (仮) 8
魔法使いは広場の噴水前に腰かけて待っていた。
この賑やかな商業都市の真ん中で。
括ることもせずに無造作に投げてある長髪がその水に触れそうなことをものともせずに。

「あ、まほうふはい!」
その口には食べかけのふっくらと美味しそうなパン。
おそらく焼きたてだろう。
シレークスは片手に大きな紙袋を抱えている。

「……最近のお姫様というのは随分と庶民的だな」
パンを全部食べきってからお姫様は口答える。
「だから。そーゆーのが嫌であたしは家出したんだってば」



あの大きな魔法に巻き込まれてから一週間。
少女と呼ぶには大人で、とはいえ大人とは呼び難いシレークス氏は
なんだかんだでついてきてしまった。

目覚めて最初の一言、
「なぜ、おまえが王家の剣を所持している?」
という魔法使いの質問に
「あたしが三番目のお姫様だから」
とこともなげに言い放った本人は
おおよそ王女らしからぬ態度でもって同行人と化していた。

「じゃ、じゃあ、シレークス、さん?はお城から来たの?
神さまには会ったことがあるの?」
クラヴィスは「お姫様」や「王女」の連想と現実がうまく結びつかない。
それも当然だ。
服装からして実に庶民的で、
そもそも襲撃という時点で嘘をついているとしか思えない。
剣がなければ、信じる根拠は何一つなかった。

「生憎、神さまなんて会ったことないわよ。
両親にでさえまともに会ったことないし。
そーゆーのはお姉さまのお仕事であたしは知らなーい」

どこでその言葉遣いを覚えた、と二人は思ったが口には出さない。
そしてその首を諦めない、とずるずるついてきてしまったのだ。
決め手はどうやら魔法使いが振る舞った食事だったようだが。
スープを一口食べてその表情の変貌っぷりにクラヴィスが苦笑いしたほどである。


「あ、二人ともいた!いい干し肉買えたよ魔法使い!」
そのはしゃぎっぷりはやはり十歳だった。
川沿いの村――だった――の近くにはこんな大きな街はない。
噴水の縁に座っている魔法使いに戦利品を見せる。

クラヴィスの育った村はよほど穏やかな村だったと見える。
魔法使いはその手で頭を撫でてやる。
この少年は分不相応なものを欲しがらない。
そして真面目だった。
魔法使いの頼み事はきちんとこなす。
嫌がる顔一つしない。

それに対して、と魔法使いは目の前の金髪碧眼シレークスを見る。
お姫様は、なによという顔で視線を返す。
「頼んだのは一つだけだったと思うが」
どうみてもその大袋は一つの品物ではない。
「いーじゃん。お金あんだからちょっとくらい使い込んだって」
もちろん使い込んだのは魔法使いのお金だ。
どうみても自分の服やら装飾品を新しくしている。
どう見積もっても十七歳くらいなのだが、クラヴィスとどちらが年上なのかわからない。

魔法使いがため息を一つついたところで、ぽつっと水滴が落ちてきた。
「もたなかったか」
もともと今日はずっと曇り空だった。
ひどい大雨になるのに時間はかからなかった。

小走りに宿屋に向かいながらシレークスが声を上げる。
「ちょっと、あんた、魔法使い!魔法でなんとかしてよ!
魔法使いなんだから一瞬で移動とかできるんでしょ?」
せっかくの新しい物が濡れていく。
「こういうこと、で、魔法は、使わないんだよ」
全力で走っているクラヴィスが代わる。
「こーゆー時に使わないでなんのための魔法なのよ!!
なんのための魔法使いなのよ!!!」
クラヴィスに歩調を合わせている当の本人は一切答えない。
その返事を待たず三人は宿屋にとびこんだ。


かちゃり。こんこん。
匙で更を軽く小突きながら、ご飯はこんなもんかーとお姫様。
「宿屋って、食事まででてくるんだね!」
ほどけた銅褐色の髪はまだ湿っている。
「様々よー。まあここは中の下くらいじゃないかしらねー。
そこの魔法使いがケチらなければもっと美味しいもんが出てきたと思うんだけど」
じとっと男を横目でにらみながら米粒をかき集める。

「人の財布が無尽蔵だと思ってないか?」
「実際あんたどーやって稼いでるのよ」
「それを教えるメリットがないな」
二人のやり取りをみながら
クラヴィスは魔法使いの作るご飯のほうが美味しいと思うことは黙って
目の前の皿を空にしていった。

「で、お姫様はいつまでついてくるんだ?
私たちの目的地は城だぞ」
魔法使いはアフターティーを優雅にすすりながら問いかける。
「あんた、しゃべり方統一しなさいよ。気持ち悪いわよ」
「質問に答えろ」
「……城まで道案内しようか?」
「つまりは持ち合わせがないんだな?」
突然しおらしくなったシレークスは笑顔でごまかそうとする。
「まー家を出たのは随分と前なわけよ。
定期的に追手をまいてるからみんなあたしの無事は知ってるんだけど。
城にいる時からだいぶ稼いでたんだけどねー」
やっぱり外に出ると、魅力的なものがたくさんあるじゃない?
自分にやってきたアフターティーを受け取りながら
やはりそれはどう見ても庶民の所作だった。

「それに、魔法使いを連れてきたって言ったら
あたしも神さまになんかご褒美の一つや二つもらえるかもしれないじゃん?」
「どうして?」
そこで熱いお茶をふーっと冷ましていたクラヴィスが割り込んだ。

「神さまは魔法使いに会いたがってるからよ」
「そうなの?」
「言っとくけどね?こいつ賞金首なんてもんじゃないのよ。
神さまが会いたがってるんで、誰もかれもが狙ってる。
だけど、みんな居場所は解ってるのに手出しができなかったのよ」
少年は歩いても歩いても近づかなかった赤い屋根を思い出す。

「魔法使いは、神さまに用事があるのにどうして城に行かなかったの?
神さまも会いたがっているのに」

宿屋兼酒場は日が暮れて騒がしさを増していた。
その隅っこで一つの机を三人で囲みながら二人が魔法使いを見ていた。

「―――、」
魔法使いが小さく何かを呟いた時、
窓の外できゃーと甲高い悲鳴が上がった。

その声に一瞬静まってから、誰もが外をみようとする。
大雨の中、建物を包み込むような大きな影が立っていた。
それが獰猛な魔物だと気付いた途端、街はパニックに陥った。


---
アメブロ初出。October 15, 2014
(C)MizcocyUamo

JUGEMテーマ:自作小説


愚王と魔法使い(仮) - - uamo72
<< NEW TOP OLD>>