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愚王と魔法使い (仮) 7
「まほうつかああああああああぁぁぁぁぁぁいッ!!!!」
あらん限りの破壊を願うような図太い声とともに、
女の子が剣を片手に跳びかかってくる。

肩でぱっつり揃えてある金髪が宙を舞い、
しかしその剣撃は目標に届かなかった。
魔法使いはひょい、とよける。
着地し、半身ひねりで切り返すも、魔法使いの右腕でその剣は止まった。
男の左手がその腕を握り、襲撃者はその武器を地面に落とした。
ぽかんとした顔で、ほんの数秒に起きた出来事を少年は理解できずに見ていた。


道を歩いてすぐに、魔法使いとクラヴィスは森に入った。
街道なのだろうか。
舗装はされていないが、ちゃんとした道だ。

歩き出して三日目、魔法使いはどこかしら食料を調達する。
魔法でしまってある、というあの赤い屋根の家はどこにいってるんだろう?
クラヴィスはそんなことを考えながら、自分にできることをする。

がさっと音がした。
クラヴィスは強張りながら警戒する。
ここは森の中だ。
野生の獣が出ない保証はどこにもない。
ふっと影がとびだしたかと思うと、それが件の女の子だった。


「だから、この道は嫌なんだ」
一見華奢に見えるが、筋肉はしっかりついている。
その腕を解放してやりながら放たれた魔法使いの言葉に
クラヴィスよりも高い、罵倒するような声が響いた。

「みんなあんたがあの家から出てくるのを待ってたんだから!」

動きやすい服装だが、守りが薄い。
つまりは露出が決して少なくはない服に、クラヴィスは少しドキドキしていた。
十六、七歳だろうか?
その碧眼のめつきは非常に悪い。
ぎっとクラヴィスを睨みつけた。

「あんた、魔法使いの何よ」
少年は思わず魔法使いの後ろに隠れる。

「子ども攫いまでしてるとはね!」
はー、と深く長い息を吐いて、魔法使いは沈黙する。

「ちょっとその首、置いていきなさいな!!」
魔法使いまでその距離二歩。
ぎりっとその歯を噛みしめる。

「……なにかいけないことしたの?魔法使い?」
そっとクラヴィスは口にしてみる。

「あー!!っんとに、あのバカ女も、あのくそ女も、ろくなことしねぇな!」
黒髪の荒げた声にクラヴィスは一歩下がった。
「ま、魔法使い……?」

「おいガキ。俺の首をどうるするつもりだ?」
きょとん、と場が静まり返る。
魔法使いの指すガキが、誰なのかと
クラヴィスは襲撃者を、女の子は少年を見ていた。

「そこのおまえに決まってんだろうが」
指を差され、女の子は苛立ちを露わにする。

「ガキだのおまえだの言ってんじゃないわよ!
あたしにはシレークスって名前があんのよ!」

「で、シレークス。質問に答えろ」
冷静に返されたことが余計に癪に障る。
シレークスは黙秘権を行使する。

「答えなくてもいいけどよ、おまえ、巻き込まれるぞ」
その言葉が早いか、突風が吹き荒れたのが早いか。
クラヴィスもシレークスも身体が地面から離れて舞い上がる。

「うわああああああああああ」
「きゃああああああああああああ」

木々も根こそぎ風に持って行かれる中、
魔法使いだけが平然と空を見上げていた。

「質問にー答えたらー助けてやんよー」
黒い両目がこころなしか楽しそうに見えるのは気のせいだ、と
クラヴィスは叫びながら見なかったことにする。
上空で体が回転していてそれどころではない。

ところが、
ふっと、抵抗が消えて、気づけばクラヴィスは地面に座り込んでいた。
すぐ横には魔法使い。
シレークスはまだ上で風に遊ばれている。

「これ、魔法使いがやってるの……?」

上空ではいろいろなものが巻き上げられて
辺り一面大惨事になっている。
居住地ではなくてよかった。
クラヴィスは心からそう思う。


「俺じゃねぇよ」
ぽそりと、呟いたのをクラヴィスは聞き逃さなかった。


「あんたの、首を、神さまに差し出したら、
なんでも、願い事を叶えてくれるって、いうからああああ」
その言葉が早いか、クラヴィスのすぐ向かいに女の子が出現するのが早いか。
風はなおも吹き荒れる。
回転してかなり体に負荷がかかったのか、
いくらか嘔吐してからシレークスは魔法使いに投げかける。

「なんなのよ、これ」

その問いには答えない。
「なんでも願い事を、ねぇ。おまえ、神さまを信じるか?」

岩が、木々が、空へと昇る。
上空に雲の渦が巻いていた。

  (わたくしは、あなたを、思い通りにしたいのです)

甲高い声。
絹のような髪。
優雅な仕草で実を齧る。


「俺は、到底信じられねーし、信じたくもねぇな。
他の誰かへの捧げものを横取りするようなやつなんてなあああ!」

魔法使いが、全霊で咆える。
さっきまでのことが嘘のように、青い空、静かな森が戻っていた。
鳥が羽ばたき、木が穏やかに。


「シレークス、だったか?家があるなら帰れ。
この首はやれんし、おまえのためにもならん」

魔法使いは、落ち着き払っていた。
口調も元に戻っている。
クラヴィスは少しだけほっとした。

「残念ながら。あたしに帰る家はないし、その首をもらうわ」
ふらりとした体の前で、長い剣がきらりと光る。

「ちょ、ちょっと!!」
クラヴィスは慌てて止めに入る。
どうみても、ふらふらだ。
その手を一回り小さな手が押さえる。

「とりあえず、少し休んだほうがいいよ。
ね?魔法使い?」
緑の目が訴える。


魔法使いがため息をついて、食事にしようといったところで
シレークスはその意識を手放した。


剣がするりと抜けてからんと音を立てた。
クラヴィスはきれいな剣だなと思いながら鞘に戻す。
少年には少し重い。
その柄に彫られた林檎の印の意味をクラヴィスは知らなかった。



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アメブロ初出。October 14, 2014
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