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愚王と魔法使い (仮) 6
この扉を開けて閉めれば、そこからまた一人。
村がなくなった時に戻るだけ。
クラヴィスは、来た時とは少し違う服装で取っ手に手をかけた。
早朝は、肌寒いを通り越して単に寒い。

開ければそこには秋も終わりの草。
薄暗い中、少し遠くに森の端。
その手前には石橋。

「魔法使い。どうもありがとう」
クラヴィスは改めて黒髪の男に向き直り
感謝を口にした。
銅褐色の編みこんだ髪が、首横から垂れ下がる。
自分のぼろぼろの靴が目に入る。

ぱたんと扉を閉める魔法使いはその頭を大きな掌で覆った。
ぽんぽんと、撫でるように軽くたたいた。

今から、一日が始まる。
「神さまに会ってぶっ殺したら、報告に来るよ」
そう言ってクラヴィスは家の後ろの道に一歩を踏み出した。

背中でがちゃりと鍵をかける音がする。
クラヴィスは振り返りたい気持ちを我慢した。
これから、会いに行くのだ。
自分の家を奪った神さまに。

その足取りは、朝だというのにとにかく重い。
道をまっすぐに、魔法使いが言った通りに歩く。
家が少しずつ遠ざかる。
見なくてもわかる。
一歩踏み出せば、一歩遠のくのだから。

「ここからが長いんだ」

そう呟いたのはクラヴィスではなかった。
思わず少年は振り返る。
そこには数歩離れて、魔法使いがいた。

その後ろには
「家が、ない」

家が、どこにもない。
赤い屋根も、消えている。
あるのは草と森の端。
家があったはずの場所にも草が生えていた。

「魔法、使い…?」
二十代そこそこにしか見えない、年齢不詳の魔法使いは歩き出す。
クラヴィスの隣まで来ると、立ち止まった。


「歌の続きを知ってるか」
「え?」
「森を抜けて一面の草の中に赤い一つの家がある
そこに住むのは神さまに見捨てられた者」

クラヴィスが出会った日に口遊んだ、誰でも一度は聞いたことのある歌。

「それは愚かな王と呼ばれたもの
愚かな王は見捨てた神に復讐を
その赤い家一つ魔法使いに差し出した」

魔法使いは小さな声で歌った。

「あの家は愚王の家で、私のものではない」

その説明とこの状況が全くつながらない。
クラヴィスは首をかしげた。

「私は愚王を捜しているのではない。
神さまに用事があるんだ」

その言葉にますます混乱する。
様子を見てから、魔法使いはクラヴィスに言った。

「つまり、私も城に行こうかと思うんだが反対か?」



日は昇った。
今日は既に始まっている。
少年と青年が一人ずつ、道を歩く。


クラヴィスの足取りは軽やかに。
その顔は、朝日よりも眩しく輝いていた。


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アメブロ初出。October 12, 2014
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