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愚王と魔法使い (仮) 4
釣り道具を片手に歩く魔法使いの後ろを少年が歩く。
背の高い一面の草の中を抜けて、木々の間を進む。

どこからともなく水の音がして
川があるのだとわかる。

「魔法使いっていうのは、こう、ぱぱっと、なんでも、魔法で、
できちゃ…ったり、するもん、じゃ、ないの?」

息が切れ切れになるのは道が険しいせいだ。

「できる」
平坦な返事に、ならばなぜ、としんどい声が返す。
それでも魔法使いがいつもよりずいぶんと遅く歩いていることに
少年は気付いていた。

「ぱぱっと、なんでもできる。
だから自分では何もできない人に成る」

どん、と身体同士がぶつかり、止まった先の足元随分下には堀があった。
増水時には川とつながるようだが、今は完全に遮断されて不可侵の水域になっている。

「自分が何もできなくたって、なんでも魔法でできるんだからいいんじゃないの?」
こんなしんどい思いをしなくたって、という主観を交えて訊いてみる。


「私が魔法を使うのであって、魔法が私を使うのではない」
「だから、あなたが魔法を使って何でもできるんだから、」
「魔法を使わなければ何もできないなら、それは魔法に支配されている」
質問を先読みしたかのように、魔法使いは言葉をつづけた。
竿には糸。糸の先には曲がった針。
うねうね動く虫を拝むようにしてひっかけ、放り投げる。
そして魔法使いは座った。

「でも、」
クラヴィスは少し困ってしまった。
言いたいことが言葉にならない。
ひどく、訴えたいことがあるのに。

魔法使いはちらりと横目でみてから加えた。

「自分以外のものに支配された時点で
私の魔法は失われる」

その声は低く、森のざわめきに消える。
クラヴィスも隣に座り、竿を見ていた。


   (時間も空間も理もいつだって君を支配している。
    君はいつだって君ではないものに支配されている。
    なのに君はおかしなことをいう)


そう、言ったのはまぎれもなくあの女だった。
同じ黒髪、同じ黒い目。

「変なの!」
はっとして魔法使いは少年を見た。

「だって、今魚が釣れたら魔法使いはそれを当然取るでしょ?
それは魚を釣るっていうことがしたくてそれをしてて
釣れたから、そうするんでしょ?
じゃあ決まってることだ。
それは支配とは違うの?」


緑の目が、見ていた。
まっすぐに。
両手の中の竿はぴくりとも動かない。

それは違う。

そう返したいが、返し方がわからない。
なにか違和感をうまく形にできない。
魔法使いは、その答えを返せなかった。
そもそも十歳の子供とこんな問答をしに来たわけではない。


ぴっと竿が振れて、引いた。
「あ!魚!!」
川沿いに住んでいたのだから見慣れているだろうに
まるで初めて見たかのように目を輝かせる。
そしてクラヴィスが外し、持ってきた桶に移した。

あまりにも楽しそうなその光景に
魔法使いは竿をもう一振り。

黒い長い髪が、束ねられないまま揺れる。
重力に逆らって、遠心力に従って。


桶の中に仲間が増えるたびにクラヴィスは歓声を上げる。
失敗したときには大きな落胆の声を。
帰るぞ、という頃には魔法使いにも疲れが見え始めていた。
少年はくたくたになりながら、笑顔だ。


家について、桶を床に置いたところで少年は
「ね、」と呼びかけた。
魔法使いは台所に立ちながら振り返る。

「支配とかはよくわかんないけど、
僕、魔法でぱぱっと魚のご飯ができるより
今日みたいなのが楽しい!」


そう言い投げると、薪を拾ってくるね、と森へ駈け出して行った。
疲れ切った足で。



包丁を片手に魔法使いは突っ立っていた。
くすりと笑って、参ったなあと呟く。

「多分、それが俺の言いたかったことだよ愚王」

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アメブロ初出。October 09, 2014
(C)MizcocyUamo

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