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愚王と魔法使い (仮) 3
「魔法使いの名前はなんていうの?」
パンにとろけるシチューにみずみずしいサラダを口に運びながら
少年は男に聞いた。

「まほうつかい」
男は既に食べ終わり、食後の飲み物を優雅にそそぐ。

「呼び方じゃなくて、名前!
僕はクラヴィス。森の向こうの山の向こうの、川沿いにあった村から来た」
それをきいて、男が一瞬言葉に詰まったのは無理もない。
川沿いの村が実質消えたのは一週間前のことだ。

「神さまが、太い道を作るためにそこをどけって言ったんだ」
男は、向かい側に静かに座り、テーブルに肘をついた。

「それで、クラヴィスはなぜここに?」
魔法使いは相手の名前を呼

「決まってる。神さまをぶっ殺したいからだよ」
十歳ほどの口から、大層物騒な言葉が飛び出る。
「それは穏やかではないな」
男は低い声で穏やかに言った。

「道なんか要らないって言った人たちは、みんなどこかへ連れて行かれた。
村は地図から消えた。
ね、神さまの言うことにはだれも逆らえないって本当?
どうして逆らえないの?」
矢継ぎ早に質問されて、魔法使いは口を閉じた。


「愚王を捜している、というのは誰から聞いた?」
少年は突然違う切り返しをされてきょとんとする。
そして朗らかな顔で答えた。

「それも決まってる。愚王だよ」

同じ長い黒髪でも全然印象が違うんだね、とクラヴィスは無邪気に笑う。
魔法使いは、ただ唖然としていた。


飲み物が冷めてしまったではないか。
それほどの時間、
考え込んで黙ったままの魔法使いが口を開くのを少年は待っていた。
だいぶ日が傾いて、もうすぐ沈むだろう。

「帰る場所が、無いんだ」
影法師が伸びてそこを支配しようとする。
さっきまで青空だったのに、もう今は朱色が占領している。
緑の目が、冷めきった飲み物に自分の顔を見ていた。

「愚王が、この家を教えてくれた。
魔法使いに会えば、その無念も晴れるだろうって」
その声は、小さく幼く心もとなく。


腰まではあるだろう黒髪がさらりと揺れて
魔法使いが動き出した。


「一つだけ、答えておこう。
神さまに逆らえないのは、神さまだからだ」


意味がまるで解らないよ、と文句を言った少年を背中に
魔法使いは食器を下げる。


そして、次の朝もその次も、
食卓には二人分の朝食が用意されていた。

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アメブロ初出。October 08, 2014
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