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愚王と魔法使い (仮) 2
木々の合間を抜けて石の橋を渡る。
空は天上に高く
土は太陽に焼かれ赤く
流れる川はただきらめいていた。

クラヴィスは古びた布製の鞄を斜めにかけて
まっすぐその道を歩いていた。

銅褐色の髪を編みこんでたらした十歳ばかりの彼が、
ひたすらにその道を行くのにはわけがあった。
靴には片方穴が開き、服もそれ一着しかない。

もうここしばらく、まともな食事をとっていない。
けれども、そんなことはクラヴィスしか知らないことだし
彼にとっては歩けるだけの力があれば十分だった。


石の橋を渡ればもうすぐだ、ときいた。
彼の心は躍っていた。
そしてようやくそれを見つけたのだ。

山を越え、森を抜け、突然広がる平原に赤い屋根。
ひとつの家。
誰もがその所在を知りながら
誰もが決して入れないとうたわれている家。

クラヴィスはずんずんと歩いて向かった。
しかしながら家は近づかなかった。
歩けども歩けども、家は距離を変えずにいる。


クラヴィスはその足を止めた。
そして、何かを考えるようなしぐさをして
ふっとそこに座り込んだ。

太陽が熱い。
地面が暑い。

そして彼はそこに寝転んだ。
遮るものが何一つない平原の直射日光の真下に。
そのまま、目をつむった。

「そんなところでねこけると、命を神様に持って行かれてしまうよ」
漆黒の長いまっすぐな髪。
のぞきこんだ黒真珠のような瞳。
長身の影がクラヴィスを日陰にいれる。

クラヴィスは寝転がったままにこっと笑った。
その痩せこけた腕も、疲れ切った足もそのままに。
「かまわないんだ。持って行かれても」

それを受けた男が、ほう、とおもしろそうな顔つきをする。
「その年齢で人生を諦めるには、はやすぎないか?」
長身の男はしゃがみこみ、その髪がクラヴィスに届く。
「諦めてないよ。だから僕はここに来たんだ。魔法使い」
さかさまに映る男の顔を見て、少年はにこっと笑う。

「森を抜けて一面の草の中に赤い一つの家がある
そこに住むのは神様に見捨てられた者」

クラヴィスは弱々しく歌った。

「見捨てられた、ねぇ…
おまえがここでどうなろうが、俺の知ったこっちゃないな」
魔法使いと呼ばれた男は立ち上がる。

その腕には籠。
籠の中は、野菜、だろうか?

「まほーつかい。あなたは、ぐおーを捜してるんでしょ?」

その言葉に男の足が止まる。
風が吹いても大気は熱気に満ちている。
子どもの体力は軽く限界点を迎える。


「ね、僕、役に立つからさ。ひとまず家の中に入れてくれない?」
その緑の両目が、黒い両目に競り勝った。

赤い屋根の下、魔法使いが一人住んでいる。
誰の支配も受けずに。


魔法使いは寝台の寝息を確認しながら、
採りたての菜っ葉を選別していた。
「なんでこんなガキが、愚王のやつを知ってんだ」

言葉とは裏腹にその手は細やかに、美味しい食事の支度を進めていた。



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アメブロ初出。October 07, 2014
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