SolemnAir

最初にカテゴリー「はじめに」をお読みください。(最初のご説明です)
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「春秋の宵闇」
「夜が来る前に、ちゃんとおうちに戻りなさい」
先生がそう言ったので、千夏と真冬は帰ることにしました。
太陽は既に布団に潜って、ぼんやりと燃える空が見えます。

門を抜けて歩き出すと、一人の老人が迷子になっていました。
「おじいさん、どうしたの?」
真冬が尋ねました。
老人は学校の近くの食料屋に行きたいのだと答えました。
「なら、わたしが連れて行ってあげる」
真冬がそういうと、千夏は怒りました。
「真冬?そんなことをしていたら真っ暗になってしまうわ。
先生に早く帰りなさいって言われたでしょう?」
「大丈夫よ。急げば間に合うわ」
「暗くなったら、真冬だって道に迷ってしまうわよ」
千夏が何を言っても、真冬はきこうとしません。
二人はそこで分かれることにしました。
「じゃあ、わたしは先にうちへ戻っているわ」
「うん。おじいさんを案内したらわたしもすぐに追いかけるわ」


真冬はおじいさんと二人で店を目指しました。
店に着くとおじいさんは真冬にお礼を言いました。
「ありがとうお嬢さん。しかし、良かったのかい?」
「千夏はいつもそうなの。大丈夫。まだ間に合うと思うわ」
おじいさんは真冬の姿が見えなくなるまで見送ってくれました。


真冬が急ぎ足で帰り道を歩いていると
子供を三人連れた婦人に出会いました。
一番小さい一人を背負って、片手に荷物を持ち、何か困っているようでした。
「どうしたんですか?」
話を聞けば、二人の子供たちがけんかをしているのです。
「お母さんと手をつなぐのはぼくだい」
「おいらのほうが年上なんだからおいらとつなぐんだい」
「さっきからこの調子でねぇ…家までまだ少しあるしねぇ」

真冬は少し考えました。
空はいよいよ深い紺色になり始めています。
「二人とも、おねえちゃんと手をつなぎましょう?
私の手なら両方とも空いているし、
どちらもお母さんとつながないなら平等でしょう?」
婦人はその提案を聞いて喜びましたがすぐに困ったような顔に戻りました。
「あんた、真冬ちゃんだろう?
さっき千夏ちゃんていう子があんたのことを心配していたよ。
来たら必ず真っ直ぐ家に帰るように言ってくれってね」

どうやら、千夏はとっくにここを通り過ぎたようです。
「大丈夫。走ればきっと間に合うと思うの。
それにおばさんだって
早く帰って夕食の準備をしなくてはならないでしょう?」

そうして五人は左に曲がって少し歩きました。
二人の子供たちは、
最初は嫌な顔をしていたものの真冬の優しい声にすぐに笑顔になりました。
婦人の背中では小さい子供がすやすやと寝息を立てていました。

「本当にありがとうねぇ」
家にたどり着くと婦人は何度もそういいました。
真冬は笑顔でさよならを告げると急いで走り出しました。
もう空の炎は遠く、遠くに微かに見えるだけです。

慌てて走っていると、お地蔵さんの前で同級生が泣いていました。
真冬は足を止めて、事情を聞きました。
「家の鍵がこの辺に落ちたんだ。でも見つからないんだよ」
その子の家はすぐ近くにあります。家は真っ暗でした。
「今日はぼくが一番先に帰る日なんだ。
お母さんからもらった鍵をなくしちゃったよぅ」

真冬は光が消えいく山を見てから、私が一緒に探してあげると言いました。
もうきっと間に合いません。

「でも真冬、早く帰らなきゃいけないんだろ?
千夏がだいぶ前に真っ直ぐ戻るように言ってくれって通り過ぎたよ」
「だから早く探しましょう?」

二人は何度も何度も周辺を探しました。
だんだん、暗くなってきて見えにくくなります。
二人は地面に這いつくばって探しました。

「ああ、お地蔵さん。あなたは家の鍵を見なかった?」
真冬がお地蔵さんに話しかけると、
その頭の上に鍵が光ったのが見えました。
壊れた小さなお堂の屋根の上からお地蔵さんの頭の上にと落ちたようです。
「ああ、これで家に入れる!ありがとう真冬」

泣き止んだ同級生と分かれて真冬は急いで歩き始めました。
もう、足がくたくたです。
空は完全に紺一色になり、山は黒い大きな怪物のようです。
ぽつんぽつんと合間に家があるものの
道は時々消えかかった外灯があるだけで
周囲は真っ暗です。

真冬は怖くなってきました。
誰をさらってこようか?と梟が鳴いています。

歩いても歩いても、家が見えません。
暗くて道を間違えたのかもしれません。
真冬は泣きたくなりました。

「だから先生は早く帰りなさいって仰ったんだわ。
千夏のいうことを聞けばよかった…」

細い月は帰り道を教えてくれません。
ついに真冬はその場に座り込みました。

その時でした。
ぱっと、顔に眩しい光が当たりました。



「もう!だから言ったでしょ!」
そう言ったのは千夏でした。
手には大きな明るい懐中電灯を持っています。
千夏はぐぃっと真冬の手を引っ張り、立たせました。

「絶対に迷うと思ったんだから」
千夏はぎゅっと真冬の手をつかんだままずんずんと歩き出しました。
千夏の手はとても温かく、真冬も握り返します。

家が近くなるとシチューのいい香りに、
真冬はおなかがすいていることに気がつきました。


「あら真冬、お帰りなさい。千夏もご苦労様。
今、三人から電話があったのよ。ありがとうございましたってね。
でもちゃんと千夏にお礼を言いなさいね。
懐中電灯を持ってあんたを迎えにいくために急いで家に帰ってきたんだから」


そうして、二人は食卓につくと温かいシチューを食べました。
その夜、星と月を眺めながら真冬は千夏にありがとうといいました。
そして、二人仲良くぐっすりと眠りました。


fin



その一歩を支えるのは逆側、別側の誰か。
優しさや気遣いは一辺倒のものではなく。
(C)MAhime_uamo 20091016
小説(短編) - - uamo72
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